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2021年9月17日金曜日

中小企業経営・政策 〜2021年版小規模企業白書 2-3〜

第2部第3章 感染症流行下の商工会・商工会議所の取組と小規模事業者支援

商工会・商工会議所による経営相談等の実態や感染症流行下における小規模事業者への支援について分析したもの。感染症流行後における小規模事業者からの相談は会員・非会員ともに大幅に増加した。これまで利用頻度が高かった者に加え、全く利用していなかった小規模事業者まで商工会・商工会議所への期待が高まっている。商工会・商工会議所では、「経営全般」や「財務」、「金融」の分野において、感染症流行下における支援を実施した一方で、ITに関連した相談対応に関しては、更なる支援体制の構築が期待される。
第1節 商工会・商工会議所の相談実態と小規模事業者からの評価

感染症流行前後の相談内容

感染症流行前、4~6月、11~12月のそれぞれの期間における相談件数が多い相談内容の推移を見ると感染症流行前は、「支援策(補助金・給付金・助成金・融資制度等)の情報提供」や「補助金・給付金・助成金申請」に加え「営業・販路開拓」や「経営計画の策定」の相談件数が多いと回答する者も一定程度存在していた。しかし、 4~6月は「支援策(補助金・給付金・助成金・融資制度等)の情報提供」、「補助金・給付金・助成金申請」、「資金繰り」の件数が多いと回答した者が大幅に増加していることが分かる。11~12月になると「資金繰
り」は減少し、「営業・販路開拓」や「経営計画の策定」の相談件数が多いと回答する者が増加していることから、小規模事業者の活動が足元の資金確保から売上げの維持・拡大へ徐々に移行している。また、全体を通して、感染症流行後でも「廃業」の相談件数が大幅には増加していない。業種別で見ると、4~6月は製造業・非
製造業ともに「支援策(補助金・給付金・助成金・融資制度等)の情報提供」と「補助金・給付金・助成金申請」、及び「資金繰り」の相談が多かった。なかでも「補助金・給付金・助成金申請」と「感染防止対策」は非製造業が多い傾向にあり、11~12月になると、「資金繰り」はいずれの業種も減少している一方で、「営業・販路開拓」、「感染防止対策」、及び「経営計画の策定」の相談が増加している。
感染症流行下で高まる商工会・商工会議所に対する小規模事業者からの評価

これまで全く利用していなかった小規模事業者は、感染症流行が商工会・商工会議所を利用するきっかけになっ
たものと推察される。
小規模事業者の外部環境や経営に関わる情報収集状況

小規模事業者が日常的に情報を収集するルートと感染症流行後に有効であった情報収集ルートを見ると、日常的な情報収集先として、「商工会・商工会議所」が最も多く、次いで「新聞、テレビ等のメディア」、「インターネット」が挙げられている。また、感染症流行後においても、他の情報収集先と比較して「商工会・商工会議所」は有効な情報ルートであったことが確認できる。
第2節 感染症流行下における小規模事業者の課題と商工会・商工会議所の支援

感染症流行前後の小規模事業者の経営課題

小規模事業者が重要と考える自社の経営課題について、感染症流行前後の変化を確認すると「営業・販路開拓(営業力・販売力の維持強化、新規顧客・販路の開拓)」と回答している小規模事業者の割合は、感染症流行前後にかかわらず高いことが分かる。感染症流行後は、経営指導員と同様に「ITの利活用(ホームページ等による情報発信、インターネットによる受発注、間接業務の削減)」が重要と考える経営者が増加していることが確認できる。
感染症流行下で実施した「営業・販路開拓」に関する具体的な支援策

経営指導員が感染症流行をきっかけに実施した「営業・販路開拓」に関する具体的な支援策を見ると「テイクアウト・デリバリーの実施支援」が最も多く、次いで「プレミアム付き商品券や利用券、クーポン券の発行」、「宣伝広告・PR活動の実施支援」が挙げられている。また、「ECの導入・活用支援」も一定程度実施しており、商工会・商工会議所は地元事業者が感染症流行によって変化した消費行動に対応できるよう新サービ
ス・商品提供への支援や地域活性化に向けた消費喚起といった支援に注力したことが推察できる。

中小企業経営・政策 〜2021年版小規模企業白書 2-2〜

第2部第2章 経営環境の変化に強い小規模事業者の特徴
経営分析、顧客・地域とのつながり、ブランド化、SDGsに着目して、それぞれの実態と感染症流行下における経営に資する効果を分析する。日頃からの強み・課題分析や財務 の把握状況、顧客情報の把握・活用状況と、それ らが感染症流行後の業績に資する効果といった強み・課題分析を定期的に実施し ている者や、それらを経営分析にまで活用している者ほど、感染症流行による経営環境の変化へ対応できている者の割合が高い。日頃から地域とのつながりを大事にしている小規模事業者は感染症流行後においても地域とのつながりに支えられ、売上げを維持している者が存在する。自社又は商品・サービス・技術がブランド化している者ほど、回復している事業者
の割合は高く、感染症流行後においても顧客や消費者の支持を得られている。SDGsへの取組に着手している小規模事業者はわずかであるが、経営指導員においても重要と考える者は多く、小規模事業者の持続的な発展にとっても重要な取組といえる。

第1節 日頃からの経営分析


強み・課題分析に関する取組


顧客属性別に、強み・課題分析 顧客属性別、強み・課題分析の実施状況の実施状況を見ると、「定期的に実施している」と回答する者の割合は約3割にとどまり、BtoC型事業者よりもBtoB型事業者の方が若干高い。経営分析に基づく経営計画の 策定・実行及び見直しの状況別に、感染症流行に よる経営環境変化への対応状況を見ると、「策定・実行し、見直しを行っている」と回答する者は、経営環境変化への対応ができている者が多く、見直しまで行いPDCAサイクルを回していくことの重要性が示唆される。

財務の管理


財務の管理状況では大半の者は「経営者や役員が主に管理」と回答している。財務の管理状況別に、感染症流行による経営環境変化への対応状況を見ると、「管理していない」と回答する者は、経営環境変化への対応ができていない者が多いことが分かる。

第2節 顧客・地域とのつながり


顧客とのつながり


顧客属性別に、小規模事業者の顧客属性別、主な顧客層の主な顧客層を見ると、BtoC型、BtoB型事業者ともに、「リピート客が多い」と回答する者が大半である。感染症流行後の常連客・上顧客との関係性の状況別に、売上高回復事業者の割合を見ると、「十分維持できている」と回答する者ほど、売上高回復事業者の割合が高いことが分かる。顧客とのつながりが強いことが、感染症流行後において売上高を回復している事業者の一つの特徴といえる。顧客属性別の営業戦略を見ると、BtoC型事業者はBtoB型事業者と比較して、「リピート客の中でも優先順位をつけている」と回答する者の割合は少なく、「新規客、リピート客に優先順位はない」と回答する者の割合が高い。感染症流行後の常連客・上顧客との関係性の状況別に、BtoC型事業者における、感染症流行前の顧客との関係づくりとして主に取り組みを見ると、関係性を維持できていると回答する者は、「店頭での積極的な声がけやコミュニケーションの徹底」や「SNSでの情報発信」、「対面でのイベントの実施」など、日頃より双方向でのコミュニケーションを重視する者の割合が高い。また、BtoB型事業者においても「対面での商談、展示会への参加」が最も高く、BtoC型事業者と同様に日頃より双方向でのコミュニケーションを重視する者の割合が高いことが分かる。

地域とのつながり


顧客属性別に、小規模事業者の商圏について示したものを見ると、商圏が「同一市区町村内の一部地域」又は「同一市区町村」と回答する者は、BtoC型事業者では半数以上と、BtoB型事業者と比べて多い。BtoC型事業者の方が、特に「地域内の需要開拓に取り組んでいる」者が多いことの背景には、両者間での商圏の違いが考えられる。顧客属性別に、地域とのつながりの実態について示したものを見ると、「地域内で事業者間の強いネットワークを持っている」では、BtoC型、BtoB型事業者ともに「十分当てはまる」又は「ある程度当てはまる」と回答する者の割合に差が見られないが、その他の項目においてはBtoC型事業者の方の割合が高いことが分かる。BtoC型事業者では、「地域内の需要開拓に取り組んでいる」者において、「十分当てはまる」又は「ある程度当てはまる」と回答する者の割合が最も高い。

第3節 自社又は商品・サービス・技術のブランド化


ブランド化の自己評価


業種別、顧客属性別に小規模事業者のブランド化に対する自己評価を示したものでは、業種別に見ると製造業、また顧客属性別に見るとBtoC型事業者の方が、「十分ブランド化できている」又は「ある程度ブランド化できている」と回答する者の割合が高い。

ブランド化の特徴


ブランド化の特徴を「独自性を持っている(模倣困難性の高い商品・サービス・技術)」、「歴史やストーリーなどを反映したイメージやコンセプトを持っている」、「デザイン性が高く、顧客の感性に訴えている」とし、ブランド化の特徴の実態について確認する。業種別、顧客属性別に、ブランド化の特徴の状況について示したものを見ると、ブランド化の特徴のうち、「独自性を持っている(模倣困難性の高い商品・サービス・技術)」において、「十分当てはまる」又は「ある程度当てはまる」と回答する者の割合が高い。一方、他の特徴においては、非製造業やBtoB型事業者において、割合が低いことが分かる。顧客属性別、ブランド化に対する自己評価別に、売上高回復事業者の割合を示したものを見ると、BtoC型、BtoB型事業者いずれにおいても、「ブランド化できている」と評価する者ほど、売上高回復事業者の割合が高く、BtoC型事業者の方がその差が大きいことが分かる。

第4節 SDGs への取組


SDGsとは、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された 2016年から2030年までの17のゴール(目標)と169のターゲットからなる国際目標である。SDGsの17のゴールのうち、関心のあるものを見ると、BtoC型事業者、BtoB型事業者ともに「住み続けられるまちづくりを」と回答する者の割合が最も高い。

小規模事業者が SDGs に取り組む目的


顧客属性別に、小規模事業者がSDGsに取り組む目的を見ると、「社会的責任の達成」と回答する者の割合が最も高い。また「自社・自社商品・サービスの知名度向上」や「自社好感度の向上」、「新たな事業機会の獲得」と回答する者の割合はそれぞれ約3割から約4割と、業績向上を期待する者も一定程度存在することが分かる。顧客属性別に見ると、BtoB型事業者において「取引先との関係維持」と回答する者が約3割と一定程度存在する。顧客属性別、SDGsへの認知度・取組状況別に、売上高回復事業者の割合を示したものである。これを見ると、BtoC型、BtoB型事業者いずれにおいても、SDGsへの取組を行っている者の方が、売上高回復事業者の割合が高いことが分かる。SDGsへの取組は、消費者や取引先からの支持を得られ、回復に結びついている可能性がある。

中小企業経営・政策 〜2021年版小規模企業白書 2-1〜

第2部第1章 小規模事業者を取り巻く環境の変化と対応
小規模事業者の産業構造について事業所で見ると、小売業や飲食店、宿泊業については、近年構成比が下がっているものの、依然小規模事業者において、高い割合を占めている。感染症流行による小規模事業者の業績への影響において、業種別では飲食サービス業や宿泊業で、売上高への影響が特に大きかった。一方、都市圏と地方圏との間で大きな差が見られず、感染症の影響は都市圏のみならず、地方の小規模事業者にも同程度の影響を与えている。感染症流行による消費者の意識・行動の変化について自宅周辺での消費が増加するなどの新たな需要やネットショッピングを利用する者の割合やデジタルコンテンツの消費額が増加している。消費者の意識・行動が変化する中でも、こうした変化を転機ととらえ地元の消費需要の掘り起こしや、既存商品・サービスの提供方法の見直しから事業分野の見直しなど柔軟に対応することが重要である。

第1節 小規模事業者の産業構造の実態


小規模事業所の従業者の業種別構成比の推移を1986年と2016年で比較したものを見ると、「製造業」と「小売業」の割合が大きく減少しており、「飲食店、宿泊業」や「教育、学習支援業」、「サービス業(他に分類されないもの)」を合わせた、サービス業全体の割合が増加している。都道府県別に小規模事業所の従業者数の割合を見ると、感染症流行の影響が特に大きいとされている対面型の事業のうち、「宿泊業、飲食サービス業」と「小売業」は東京都や大阪府、愛知県などの都市部では割合が低い一方、東北地方や四国地方、九州地方は、割合が高い県が多い。

第2節 感染症流行による小規模事業者への影響


売上高への影響


顧客属性別(BtoC型事業者及びBtoB型事業者)、2020年の年間の売上高(前年同期を100とした場合)を見るとBtoC型事業者の方が、前年と比べ「50以上 75未満」又は「50未満」と回答している者の割合が高く、売上高が大きく落ち込んだ者が比較的多い。BtoC型事業者の想定ターゲット別に、2020年の年間の売上高を見ると、想定ターゲットが「主に観光客向け」の者は、前年と比べて「50以上 75未満」又は「50未満」と回答している者の割合が高いことが分かる。顧客属性別に、2020年1月から10月のうち最も売上高が減少した月を見ると、BtoC型事業者では緊急事態宣言が発令された4月、5月と回答する者の割合が6割超である一方、BtoB型事業者は7月以降と回答する者の割合が約3割と最も高く、影響に差が見られる。

業種別の影響


業種別に、2020年の年間の売上高を見ると、宿泊業や飲食サービス業は売上高が大きく落ち込んだ者が比較的多
い。小売業について更に細かく分類して見ると、織物・衣類・身の回り品小売業は、飲食料品小売業に比べ売上高が大きく落ち込んだ者が比較的多い。最も売上高が減少した月を見ると、宿泊業や飲食サービス業では緊急事態宣言が発令された4月、5月と回答する者の割合が7割超である一方、製造業や建設業では7月以降と回答する者の割合が3割超と、最も高いことが分かる。

地域別の影響


三大都市圏(東京圏、大阪圏、名古屋圏)と地方圏別に、2020年の年間の売上高を見ると、両地域の間での差は余り見られない。

第3節 感染症流行による消費者の意識・行動の変化


感染症流行による国内消費への影響


主要品目の消費額の推移をを見ると、「食料」などの支出弾力性の低い品目や「理美容サービス」などの生活必需サービスについて影響は小さい。一方、「交際費」や「外食」など外出を伴う品目や、「被服及び履物」や
「教養娯楽サービス」などの支出弾力性の高い品目については前年までと比較して、低い水準で推移している。

感染症流行後の消費者の意識・行動の変化


男女別に、感染症流行後により健康意識が高まった消費者の割合では「ステイホーム・コロナ禍」を機に、よ
り健康意識の高まった者が半数近く存在する。消費者の地方移住への関心の変化では感染症が特に流行した「東京都 23区」や「東京圏」を中心に、地方移住への関心が高まった者が一定の割合存在することが分かる。実際に2020年(5-12月)においては、東京都が転出超過に転じた上、転入超過となった道府県が25道府県と増加している。ネットショッピングをする世帯の割合の推移をを見ると、2019年にかけてネットショッピングをする者の割合は増加傾向にあったが、感染症が流行した 2020年4月以降、前年までと比較して大幅に増加している。 年齢階層別に、2014年と2019年の消費者のインターネットとSNSの利用状況の推移を見るとインターネットの利用、SNSの利用共に、利用する者の割合が増加しており、特に2014年には利用する者の割合が低かった60歳以上の高齢層においても大きく増加している。消費者のSNSの利用目的について2014年と2019年の差に着目すると、「知りたいことについて情報を探すため」や「災害発生時の情報収集・発信のため」と回答する者の割合が大幅に増加しており、SNSの活用が消費者にとって、実用的なツールとなりつつある。

第4節 感染症流行を踏まえた事業の見直しと対応


小規模事業者の感染症流行による変化の受け止め方


顧客属性別に、顧客の意識・行動の変化のうち、自社の事業にプラスの影響をもたらしている変化を見ると顧客属性にかかわらず、「衛生意識、健康意識の向上」と回答する者の割合が最も高く、BtoC型事業者では「地域内消費の拡大」、BtoB型事業者では「ネット通販やオンラインサービスの利用増」と回答する者の割合が次いで高い。感染症流行による変化が事業にプラスの影響を及ぼしていると考える事業者が一定程度存在していることが分かる。

感染症流行下における顧客数の維持・増加のための取組


顧客属性別に、顧客数の維持・増加のための取組状況を見ると、「既存商品・サービスの提供方法の見直し」や「販売対象の見直し」、「新たな商品・サービスの開発」と比べ、「営業活動・商談等のオンライン化」や「ECサイト等による販売・予約受付」、「SNSを用いた宣伝広告」といったオンラインツールの活用に取り組んだ者は相対的に割合が低いことが分かる。また、BtoC型事業者の方が、「営業活動・商談等のオンライン化」以外の項目において、「取り組んだ」と回答する者の割合が高いことが分かる。

オンラインツールの活用


感染症流行前後における顧客との関係づくりにおいて力を入れている取組の変化を見ると、BtoC型、BtoB型いずれも「SNSでの情報発信」や「自社HPでの情報発信」など、顧客との関係づくりでは感染症流行下でオンラインツールを活用した取組に力を入れる者が増加していることが分かる。一方、「対面でのイベントの実施」や「対面での商談、展示会への参加」など、対面による関係づくりの取組に力を入れる者は減少している。顧客属性別、オンラインツールの活用状況別に、商圏の変化を見ると、いずれにおいても取組を行った者の方が、「広がった」と回答する割合が高い。オンラインツールの活用状況別に、商圏が広がったと回答した者に対して、どこまで広がったかを聞いたものを見るとBtoC型事業者、BtoB型事業者共に、いずれのオンラインツールにおいても、取組を行った者の方が、「他の都道府県まで広がった」と回答する者の割合が高く、「営業活動・商談等のオンライン化」や「ECサイト等による販売・予約受付」において、「海外まで広がった」と回答する者の割
合が高いことが分かる。

東京マラソン21年大会は延期で22年大会は中止

東京マラソン21年大会は10月実施を断念し22年3月へ延期とのこと。それに伴い22年大会が中止となります。
22年3月に実施するのはあくまでも延期した21年大会なので、ややこしいですが21年大会は開催(予定)で22年大会が中止ということです。。

2021年9月16日木曜日

中小企業経営・政策 〜2021年版中小企業白書 2-3〜

第2部第3章 事業承継を通じた企業の成長・発展とM&Aによる経営資源の有効活用

事業承継の意向を確認したところ、親族への承継を希望する経営者が多いものの、近年の事業承継は親族内承継から親族外承継にシフトしている。事業承継を実施した企業の承継後の業績を分析したところ、後継者の年齢や事業承継の方法などにかかわらず、総じて事業承継実施企業のパフォーマンスが同業種平均値を上回っていることが分かった。先代経営者や後継者が、事業承継が単なる経営者交代の機会ではなく、企業の更なる成長・発展のための転換点であることを認識した上で、事業承継に向けた準備や承継後の経営に臨むことの重要性を指摘した。雇用維持などの事業承継策としてだけでなく、事業の成長・発展や事業再生を目的に売り手としてのM&Aを検討する企業も一定程度存在することを確認した。
第1節 事業承継を通じた企業の成長・発展

休廃業・解散の動向と経営者の高齢化

休廃業・解散件数は、2019年までは4万件台の半ばで推移していたが、2020年は新型コロナウイルス感染症の
影響などにより、調査開始以降最多となる4万9,698件となった。2018年から2020年にかけて、休廃業・解散企業の業種構成比には大きな変化は見られない。2020年は休廃業・解散件数が増加しているが、業種にかかわらず休廃業・解散が増加している。休廃業・解散企業の従業員規模を見ると、全ての業種において、休廃業・解散企業の95%以上は従業員20名以下の比較的小規模な企業であることが分かる。近年、経営者の平均年齢は上昇傾向にあり、休廃業・解散件数増加の背景には経営者の高齢化が一因にあると考えられる。休廃業・解散した企業のうち、直前期の業績データが判明している企業について集計すると、2014年以降一貫して約6割の企業が当期純利益が黒字であることが分かる。2018年から2020年にかけて、利益率が5%以上の企業が4分の1程度となっており、業績不振企業だけでなく、高利益率企業の廃業が一定数発生していることが分かる。年代別に見た中小企業の経営者年齢の分布を見ると、2000年に経営者年齢のピーク(最も多い層)が「50歳~54歳」であったのに対して、2015年には経営者年齢のピークは「65歳~69歳」となっており、経営者年齢の高齢化が進んできたことが分かる。経営者年齢別に2017年から2019年の間の新事業分野への進出の状況を見ると、経営者年齢が若い企業ほど、新事業分野進出に取り組んだ企業の割合が高く、売上高、利益ともに経営者年齢と負の相関がある。
事業承継の現状と事業承継実施企業のパフォーマンス

た経営者交代数の推移を見ると、経営者交代数は年間3万6千件前後で推移しており、毎年一定程度経営者交代が行われている。承継方法別に経営者交代前後の経営者平均年齢を見ると、交代前の経営者年齢は同族承継で68.9歳、同族承継以外で63.2歳と、同族承継では事業承継時期が遅くなる傾向にあることが分かる。同族承継においては、子息などの後継者が一定の経験や年齢を重ねるのを待って事業承継するために、結果的に承継時期が遅くなっている可能性が考えられる。一方で交代後の経営者平均年齢は同族承継で46.8歳、同族承継以外で54.5歳と同族承継の方が若い年齢で経営者に就任していることが分かる。現在の経営者の就任経緯については半数以上の企業で、先代経営者の親族が経営者に就任している。その中でも近年事業承継をした経営者の就任経緯は、近年同族承継の割合は減少しており、足元の2020年においては、内部昇格と同水準の34.2%となっていることが分かる。事業承継の方法がこれまで主体であった親族への承継から、親族以外への承継にシフトしてきていることが分かる。
後継者有無の状況

後継者不在企業の割合(以下、「後継者不在率」という。)の推移を見ると、後継者不在率は2017年の66.5%
をピークに近年は微減傾向にあり、足元の2020年は65.1%となっている。業種別に後継者不在率を見ると製造業では57.9%、運輸・通信業では61.5%と比較的低い一方、建設業では70.5%、サービス業では69.7%となっており、業種によって差異がある。
後継者有無別のパフォーマンス比較

後継者有無と企業パフォーマンスの関係について、両者は相関関係にあると言われている。例えば負債比率、有利子負債利子率が高く、売上高成長率が低い企業は後継者が不在になる確率が高まることが指摘されている。(株)東京商工リサーチの「企業情報ファイル」を基に、後継者がいる企業(以下、「後継者有企業」という。)と後継者不在企業のパフォーマンスについて後継者有無別に、2015年から2019年の売上高成長率の中央値を見を見ると、後継者有企業において売上高成長率が高い傾向にあることが見て取れる。
後継者の選定

後継者を選定する際の優先順位について、優先順位1位で最も高いのは「親族」(61.1%)で、次いで「役員、従業員」(25.0%)となっている。続いて優先順位2位を見ると、「役員、従業員」が最も高く5割を超えており、また「事業譲渡や売却」を検討する者も一定程度存在することが分かる。優先順位3位では、「事業譲渡や売却」、「外部招へい」を合わせると6割を超えている。このことから、多くの経営者はまず「親族」を第一候
補として検討し、次いで「役員、従業員」、そして「事業譲渡や売却」、「外部招へい」の順に検討している様子がうかがえる。ただし、近年同族承継の割合が34%程度であることを考慮すると、必ずしも希望通りに親族への承継がかなわないケースも増えてきていると考えられ、事業継続の意志がある場合は早めに後継候補者の意思確認を進めていくことで、様々な選択肢を検討することが可能になるといえる。
事業承継の課題

後継者への承継方法別に事業承継の課題を見ると、「事業の将来性」については、承継方法にかかわらず半数以
上の経営者が課題として捉えていることが分かる。また同族承継や内部昇格の場合は、「後継者の経営力育成」や「後継者を補佐する人材の育成」の割合が高い。さらに内部昇格の場合は、「後継者を探すこと」も20.9%と他の承継方法と比べ高くなっており、役員・従業員の中から適任者を選定することが課題となっている様子がうかがえる。一方で、外部招へいの場合は、「近年の業績」や「従業員との関係維持」の割合が高い。「近年の業績」が課題となっていることで、外部招へいという手段を検討している可能性も考えられる。
承継時の状況別、事業承継後のパフォーマンス

事業承継の1年後から5年後まで同業種平均値を20%前後上回っており、事業承継実施企業が同業種平均値よりも高い成長率で推移している。事業承継時の後継者の年齢別に分析したものを見ると、全ての指標において、事業承継時の年齢にかかわらず事業承継後の成長率が同業種平均値を上回っており、事業承継後パフォーマンスが向上していることが分かる。特に事業承継時の年齢が39歳以下においては成長率が高い傾向にある。
第2節 M&Aを通じた経営資源の有効活用

中小企業のM&Aの動向

10年前と比較した中小企業のM&Aに対するイメージの変化について確認したものを見ると、買収することにつ
いては33.9%で、売却(譲渡)することについても21.9%で「プラスのイメージになった」としており、いずれも「マイナスのイメージになった」を大きく上回り、M&Aに対するイメージが向上してきていることが分かる。地域別にM&Aに対するイメージの変化を見ると、買収すること、売却(譲渡)することのいずれも地域による傾向の差は見られない。都市部の企業だけでなく、地方部の企業にとってもM&Aが身近な手段になってきている様子がうかがえる。
M&A実施意向

中小企業のM&A実施意向を見ると、3割程度の中小企業において、何らかの形でM&Aを実施する意向がある。買い手・売り手の別に見ると、買い手意向がある企業の割合が19.1%と高く、売り手意向がある企業は5.6%となっている。また、買い手・売り手両方の意向があるとする者も4.1%存在する。M&A実施意向別に希望する相手先企業の規模について、買い手として意向のある企業では「自社より小規模」を希望する割合が高く、売り手として意向のある企業では「自社より大規模」を希望する割合が高い。M&A実施意向別に希望する相手先企業の業種について、買い手として意向のある企業では「同業種」が54.2%、「異業種・業種関連あり」が37.6%となっており、自社と関連する業種を希望する割合が高い。一方で、売り手として意向のある企業では「異業種・業種関連なし」が30.7%となっており、買い手として意向のある企業と比較すると、幅広い業種で相手先企業を検討している様子がうかがえる。M&A実施意向別に希望する相手先企業の地域を確認したものを見ると、買い手として意向のある企業では相手先企業を比較的近隣の地域で検討している一方、売り手として意向のある企業では「その他国内全域」が46.8%と最も高く、広いエリアで相手先企業を検討していることが分かる。M&A実施意向別に
希望するM&Aの形態について確認したものを見ると、買い手として意向のある企業、売り手として意向のある企業のいずれも「垂直統合(商流の川上や川下企業との統合)」よりも「水平統合(同業種同業態企業との統合)」を希望する傾向にある。
買い手としてのM&A実施意向

経営者年齢別に買い手としてのM&A実施意向を見を見ると、経営者年齢が若い企業ほど「買い手意向あり」の割合が高いことが分かる。特に、経営者年齢が30代以下の企業では4割以上で買い手意向がある。買い手としてM&Aを実施する際に重視する確認事項について「事業の成長性や持続性」が最も高く6割を超えており、「直近の売上、利益」、「借入等の負債状況」と続いている。希望するM&Aの形態別に買い手としてM&Aを実施する際に重視する確認事項について見ると、水平統合の場合は「直近の売上、利益」や「借入等の負債状況」など財務面を重視する傾向にあり、垂直統合の場合は、「既存事業とのシナジー」や「事業の成長性や持続性」など事業そのものを重視する傾向にあることが分かる。
売り手としてのM&A実施意向

後継者有無別に売り手としてのM&A実施意向を見を見ると、後継者がいない企業において、「売り手意向あり」の割合が高いことが分かる。売り手としてのM&Aを検討したきっかけや目的について、「従業員の雇用の維持」や「後継者不在」といった事業承継に関連した目的の割合が高い一方、「事業の成長・発展」も48.3%と高く、約半数の企業が成長のために売り手としてのM&Aを検討していることが分かる。売り手としてM&Aを実施する際に重視する確認事項について見ると「従業員の雇用維持」が82.7%となっており、ほとんどの経営者が売却・譲渡後の従業員の雇用維持を重視していることが分かる。実際にM&Aを実施した企業(買い手企業)に対し、売り手企業の従業員の雇用継続の状況について確認したものを見ると、8割以上の企業でM&A実施後も全従業員の雇用を継続している。
新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた中小企業のM&A実施意向の変化

感染症流行前と2020年10月時点でのM&A実施意向について確認したものを見ると、感染症流行前後での差は大
きくはないものの、「買い手として意向あり」とする割合は低下し、「売り手として意向あり」とする割合は高まっていることが分かる。
中小企業のM&Aを支援する機関

M&A支援機関別に対応することの多い買い手企業のM&Aのきっかけや目的について、事業引継ぎ支援センターでは、「人材の獲得」を目的とする買い手企業が最も多く、「売上・市場シェアの拡大」、「新事業の展開・異業種への参入」が上位となっている。事業引継ぎ支援センター以外では、「売上・市場シェアの拡大」の割合が特に高い傾向にあることが分かる。また金融機関やその他支援事業者では、「取引先や同業者の救済」や「地域の産業や雇用の維持」の割合も相対的に高い傾向にある。M&A支援機関別の特徴としては、事業引継ぎ支援センターは「相談の敷居の低さ、金額の安さ」や「話しやすさや相談者への経営理解」が上位となっており、事業
者が気軽に相談に行きやすいことが特徴となっている。M&A仲介業者では、「M&Aの専門性」、金融機関では「話しやすさや相談者への経営理解」や「接触頻度」、その他支援事業者では「M&A以外の経営課題に対するサポート」の割合が高く、支援事業者によって差別化している要素に違いがある。

中小企業経営・政策 〜2021年版中小企業白書 2-2〜

第2章 事業継続力と競争力を高めるデジタル化

我が国の今後の人口減少を見据えて生産性向上がうたわれている中、デジタル化の推進を一つの起点とし、従来の業務スタイルの脱却と新たな事業モデルの確立を目指していくことが、我が国経済を成長・発展させていくためには必要となる。
第1節 我が国におけるデジタル化の動向

感染症流行を踏まえて、事業継続力の強化におけるデジタル化の重要性に関する意識の変化をを見ると、約3分の2の企業が事業継続力の強化における意識が高まったと回答しており、生産性向上のみならず、事業継続力の強化の観点からもデジタル化への意識が高まっていることが分かる。
DXの具体的なアクション

企業がDXの具体的なアクションを組織の成熟度ごとに設計できるように、DXをデジタイゼーション、デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーションという3つの異なる段階に分解する。ここでは、デジタイゼーションは、アナログ・物理データの単純なデジタルデータ化のことであり、典型的には、紙文書の電子化である。デジタライゼーションは個別業務・プロセスのデジタル化であり、さらに、デジタルトランスフォーメーションは全社的な業務・プロセスのデジタル化、および顧客起点の価値創造のために事業やビジネスモデルを変革することである。
IT投資と労働生産性の関係

売上高IT投資比率と労働生産性の伸び率を見ると、両者の間で明瞭な因果関係を確認することができない。大規模な投資の場合には、導入期間が長期化し、従業員が習熟して新システムに移行することによる効果が現れるまでに時間がかかる可能性などといった要因が想定される。我が国の中小企業において、デジタル化を通じた労働生産性の向上に向けては、表面的なIT投資だけでなく、デジタル化の取組が組織内に浸透していくよう組織的に取り組んでいくことの重要性が示唆される。
第2節 中小企業におけるデジタル化に向けた現状

感染症流行前後のデジタル化に向けた取組の変化

業種別に感染症流行に伴いデジタル化の取組において最も重要度が上がった項目を見ると、全産業では「経営判断や業務プロセスの効率化・固定費の削減」を挙げる割合が約半数を占めており、「建設業」、「運輸業,郵便業」において多い傾向にある。BtoCが主体である「宿泊業,飲食サービス業」や「生活関連サービス業,娯楽業」では、「新たな事業や製品、サービスの創出と改善」の割合が最も多く、「製造業」では、「サプライチェーンの最適化・生産プロセスの改善」、「学術研究,専門・技術サービス業」では、「情報セキュリティ対策の強化・法規制のクリア」を挙げる企業も一定数存在している。、取引先属性別に感染症流行前後で取り組んだITツール・システムを活用した働き方改革の取組を見ると、感染症流行後において、「Web会議」を挙げる割合が最も高い。「Web会議」は、BtoB(45.4%pt増)、BtoC(41.7%pt増)いずれも増加しており、感染症流行を受けて急速に取組が広まっている。「テレワーク、リモート勤務」もBtoB(34.8%pt増)、BtoC(23.6%pt増)いずれも増加しており、柔軟な勤務形態の整備に向けた変化が見られる。他方で、「文書の電子化」や「社内の電子決裁」は、取組が進んでいないことが分かる。感染症流行を契機に、「テレワーク、リモート勤務」の環境整備が進んでいるものの、「文書の電子化」や「社内の電子決裁」などは進んでおらず、テレワークなどの更なる推進に向けては、様々な課題が散見される。
IT 投資への予算が増える要因の日米比較

米国企業は市場や顧客などの外部環境の変化を把握するために IT投資の予算を投じている傾向にあるのに対して、日本企業は IT投資の予算の大半が働き方改革の取組や社内の業務効率化に振り分けられている傾向にある。
ITツール・システムの導入状況

ITツール・システムの導入状況を見ると、「人事」や「経理」関連のITツールの導入が他の分野と比較すると、以前より進んでいることが分かる。「コミュニケーション」関連の IT ツールは、「1~2年前から導入している」若しくは「新型コロナウイルス感染症流行を契機に導入した」と回答する割合が4割を超えており、働き方改革の
取組が進んでいることが示唆される。「業務自動化」や「経営分析」関連のITツールについては、現段階では導入予定のない企業が6割前後を占めている。業種別のITツール・システムの導入状況を見ると、「製造業」や「建設業」では、「生産管理」関連の導入、「卸売業」や「小売業」では、「販売促進・取引管理」関連の導入が進んでいる。他方で、「宿泊業,飲食サービス業」では、他業種に比べ全体的にシステム導入が遅れていることが分かる。
クラウドサービスの導入状況、今後の利用方針

クラウドサービスの導入状況を見ると、「グループウェア」におけるクラウドサービスの導入率が半数以上と最も高く、次いで「情報管理」、「コミュニケーション」関連のクラウドサービスの導入率が高くなっている。他方で、全体的に見ると、総じてクラウドサービスの利用は進んでいない。クラウドサービスは自社でサーバーを保有する必要がなく、利用するデータ量や時間などに応じて費用を支払うことから、規模の大きくない企業でも低コストで導入可能なものの、従業員数が多い企業ほど、クラウドサービスの利用拡大に積極的な傾向にある。IT投資額の推移別に今後のクラウドサービスの利用方針の関係を見ると、IT投資額が増加傾向にある企業は、クラウドサービスの利用拡大にも積極的である。
IT人材の確保と育成

IT人材の確保状況を見ると、デジタル化の取組全体を統括できる人材及びITツール・システムを企画・導入・開発できる人材は、半数以上の企業が確保できていない。ITツール・システムを企画・導入・開発できる人材及びITツール・システムを保守・運用できる人材は、7割以上の企業が他の従業員と同等水準の報酬にとどまっており、報酬面での課題が専門的なIT人材を確保できていないことにつながっている可能性も示唆される。IT人材の確保における課題を見ると、「IT人材を採用・育成する体制が整っていない」と回答する企業の割合が半数以上を占めており、体制面での課題を抱えていることが分かる。
情報セキュリティ対策

業種別にサイバー攻撃の被害状況をを見ると、全体の2割以上の企業が何らかの被害を受けていることが分かる。被害状況について「分からない」と回答している企業も一定数存在しており、潜在的な被害も含めると、相当数の企業が被害を受けていることが示唆される。「運輸業,郵便業」や「宿泊業,飲食サービス業」では、サイバー攻撃による被害を受けたと回答する割合が約1割と低いものの、「卸売業」や「情報通信業」では、4社に1社が被害を受けていることが確認される。従業員規模別にサイバー攻撃の被害状況を見ると、従業員数が多い企業ほど、サイバー攻撃を受けている割合が高い傾向にあり、301人以上の企業では3割以上が被害を受けたことがあると分かる。「情報通信業」は、サイバー攻撃の被害を受けた割合が高かったものの、「十分に対策している」と回答する割合が40.3%と最も多くなっている。被害を受けた割合が低かった「運輸業,郵便業」や「宿泊業,飲食サービス業」では、「あまり対策していない」若しくは「まったく対策していない」割合が3割を超えており、サイバー攻撃による被害が懸念される状況にあると考えられる。
事業継続力の強化に向けたデジタル化の取組

業種別にデジタル化における事業継続力の強化に対する意識を見ると、業種を問わず、事業継続力の強化を意識して、デジタル化に取り組んでいる割合が約6割を占めている。デジタル化における事業継続力強化への意識と労働生産性との関係をを見ると、事業継続力の強化を意識して、デジタル化に取り組んでいる企業における労働生産性の平均値が6,692千円/人と最も高いことが分かる。事業継続力の強化を意識せずデジタル化に取り組んでいる企業の労働生産性の平均値は、事業継続力の強化を意識してデジタル化に取り組んでいる企業の83.0%の水準となっている。
第3節 中小企業のデジタル化推進に向けた課題

業種別のデジタル化推進に向けた課題を見ると、全産業では、「アナログな文化・価値観が定着している」が最も高く、次いで「明確な目的・目標が定まっていない」、「組織のITリテラシーが不足している」となっており、大半の業種における課題として上位を占める。「卸売業」や「建設業」では、「長年の取引慣行に妨げられている」、「宿泊業、飲食サービス業」では「資金不足」を回答する企業が3割強存在していることも確認される。従業員規模別にデジタル化推進に向けた課題を見ると、従業員数の多い企業ほど、アナログな文化・価値観の定着や組織のITリテラシー不足、長年の取引慣行といった課題を挙げる傾向にあり、変革に向けた組織の適応力に課題を抱えている企業が多いことが示唆される。従業員数の少ない企業では、明確な目的・目標が定まっていないことや資金不足といった課題を挙げる傾向にあり、組織体制の課題を抱えている企業が多いことが示唆される。デジタル化推進による効果別に、デジタル化推進に向けた課題を見ると、効果が出なかったと実感している企業は、効果が出たと実感している企業に比べ、明確な目的・目標が定まっていないことや資金不足を挙げる割合が高い傾向にあることが分かる。資金不足は企業状況にも左右されるものの、デジタル化の推進に当たってはまず、組織における目的・目標を明確化させることが重要であると示唆される。
第4節 中小企業におけるデジタル化に向けた組織改革

デジタル化推進に向けた意識改革

デジタル化に対する社内の意識別に、デジタル化推進による業績への影響を見ると、デジタル化に取り組むことに対して積極的な文化が醸成されている企業は、プラスの影響を及ぼした割合が75.9%を占めている。デジタル化に取り組むことに対して抵抗感が強い企業では、「どちらとも言えない」の割合が56.2%を占めており、業績への寄与を実感できていないことが確認される。デジタル化に対する社内の意識と労働生産性との関係を見ると、全社的にデジタル化に積極的に取り組む文化が定着している企業における労働生産性の平均値が6,841千円/人と最も高く、次いで、積極的に取り組む文化が醸成されつつある企業が高い傾向にあることが分かる。全社的にデジタル化に対する抵抗感が強い企業の労働生産性の平均値は、全社的にデジタル化に積極的に取り組む文化が定着している企業の約6割の水準となっている。
経営者の積極的な関与

デジタル化の推進に対する経営者の関与度について見ると、「経営者が積極的に関与している」という企業が約3割存在していることが分かる。他方で、システム部門や現場の責任者などに一任しており、経営者は関与していないという企業も約2割に上ることが確認される。デジタル化の推進に対する経営者の関与度別に、デジタル化推進による業績への影響を見ると、経営者が積極的に関与している企業は、プラスの影響を及ぼした割合が75.0%を占めていることが分かる。システム部門や現場の責任者などに一任し、経営者は関与していない企業では、半数以上の企業が「どちらとも言えない」と回答しており、業績への寄与を実感できていないことが確認される。デジタル化の推進に対する経営者の関与度と労働生産性との関係を見ると、経営者が積極的に関与している企業における労働生産性の平均値が6,440千円/人と最も高く、次いで、ある程度関与している企業が高い傾向にあることが分かる。経営者は関与せず、システム部門や現場の責任者などに一任している企業の労働生産性の平均値は、経営者が積極的に関与している企業の86.7%の水準となっている。
デジタル化に向けた方針の策定

業種別に、事業方針及びデジタル化の取組において最も重視する項目を見ると、全産業では、事業方針においては、「新たな事業・商品・サービスの創出・改善」が最も高く、次いで「取引関係の構築・改善」、「組織管理体制の見直し」となっている。他方で、デジタル化の取組においては、「経営判断・業務プロセスの効率化、固定費の削減」が最も高く、社内改善の取組が重視されている傾向が分かる。デジタル化の方針を含んだ事業方針の立案と労働生産性との関係を見ると、事業方針の中にデジタル化の方針・目標が含まれている企業の労働生産性の水準は高い傾向にあることが分かる。
デジタル化推進に向けた組織づくり

デジタル化に向けた社内の推進体制と労働生産性との関係を見ると、全社的にデジタル化を推進している企業における労働生産性の平均値が6,690千円/人と最も高い傾向にあることが分かる。部署単位でデジタル化を推進している企業の労働生産性の平均値は、全社的にデジタル化を推進している企業の83.3%の水準となっている。
ITベンダー・外部パートナーとの協業

業種別にITベンダーの活用状況を見ると、全産業の56.0%がITベンダーを活用したことがあると分かる。活用したことがある企業の割合は、「卸売業」が最も高くなっているが、「宿泊業,サービス業」では、約3社に1社の企業にとどまっており、業種間で活用状況に差が生じていることが確認される。取引先属性別にITベンダーの活用状況を見ると、BtoBの企業はBtoCの企業と比較して、活用したことがある割合が高い傾向にあることが分かる。従業員規模別にITベンダーの活用状況を示したものである。これを見ると、従業員規模の大きい企業ほど、活用したことがある割合が高い傾向にあり、301 人以上の企業では75.6%を占めている。20人以下の企業では、301人以上の企業の半数以下の割合(34.9%)にとどまることが分かる。ITベンダーが取引先・支援先である企業側から求められていると考える能力・技量を見ると、「業務プロセスの改善提案」を挙げる割合が最も高い。一方で、ITベンダーに対して求める能力をを見ると、「保守・運用の能力」が最も高く、次いで「求める機能の着実な実現」、「システムの導入コストの安さ」の割合が高い。中小企業側とITベンダー側との間に認識のずれがあり、中小企業とITベンダー側が求める提案にミスマッチが生じている可能性が考えられる。外部パートナーとの協業(他社と連携し、互いの技術・ノウハウを活用して新たな事業・商品・サービスの創出を実現する活動の総称)について従業員規模別にデジタル化における外部パートナーとの協業状況を見ると、従業員数が多いほど、連携・協業したことがある割合が高い傾向にあるが、全体では1割強にとどまることが分かる。デジタル化の方針を含んだ事業方針の有無別に、デジタル化における外部パートナーとの協業による成果を見ると、事業方針の中に、デジタル
化の方針・目標が含まれている企業は、含まれていない企業に比べて成果が出たと実感している割合が高いことが分かる。デジタル化の方針・目標を明確化した上で外部パートナーとの協業により、自社の経営リソースを補いデジタル化に取り組む重要性が示唆される。
公的支援機関の活用

業種別にデジタル化における公的支援機関の活用状況を見ると、業種にかかわらず、デジタル化の取組において公的支援機関を活用したことがある企業は2割程度にとどまっている。IT人材の確保状況別に、デジタル化における公的支援機関の活用状況を見ると、IT人材を確保できている企業は、確保できていない企業と比較して、公的支援機関を活用したことがある割合が高いことが分かる。公的支援機関活用の成果を見ると、約7割の企業が一定の成果を感じたと実感している。
デジタル化推進に向けた業務変革

デジタル化の定着に向けた取組をを見ると、「日常的な改善活動」を挙げる企業が多いことが分かる。また、IT活用レベルの高い企業は、活用レベルの低い企業と比較すると「IT活用の継続的な見直し」や「IT活用に関する日常的な情報収集」に関して20%pt以上の差が生じている。ITツール・システムの導入と業務プロセスの見直し方法について、労働生産性との関係を見ると、業務プロセスの見直しに合わせてITツール・システムを導入する企業の労働生産性の平均値は、導入するITツール・システムに合わせて、業務プロセスの見直しを行う企業の84.4%の水準となっている。ITツール・システム起点で、業務プロセスの見直しを行っていくことが有効であることが示唆される。

2021年9月14日火曜日

中小企業経営・政策 〜2021年版中小企業白書 2-1〜

第2部第1章 中小企業の財務基盤と感染症の影響を踏まえた経営戦略

近年、平均的な中小企業の財務の安全性・収益性は大きく上昇してきた一方、売上高の減少への耐性については、大企業に比べて低い。中小企業の財務基盤・収益構造は業種によっても異なり、財務面に対する意識との間
にも関係性があることから、まずは中小企業自身が財務・収益の状況について把握することが重要となる。感染症対策として大規模な資金繰り支援策が講じられ、金融機関も積極的に融資を実行した結果、中小企業の資金繰り環境は大きくは悪化していない。財務基盤の弱い企業を中心に支援機関活用のニーズがあること、金融機関に対して期待が高まっている支援分野があることなど、今後支援機関も巻き込みながら経営戦略を策定していくことが重要となる。今を好機と捉え、感染症以外の事業環境の変化にも目を向けながら、事業を見直していくことが、企業の再びの安定と成長につながるといえる。
第1節 中小企業の財務基盤・収益構造と財務分析の重要性

規模や業種だけでなく、中小企業自身の財務に対する意識と財務の安全性・収益性との間には密接な関係がある。過去業績が悪化した際の反省から財務について学び、財務の安全性や収益性を改善した企業は、売上高の減少への耐性が高く、現在は感染症流行下でも安定的に事業を継続できている。これまで財務面への意識が低かった企業では、自社の財務状態について定量的に把握することが重要といえる。
自己資本比率と借入金依存度

中規模企業の自己資本比率は、1998年度を底に上昇傾向にあり、2019年度時点では42.8%と、大企業の44.8%ほぼ同水準となっている。一方、小規模企業の自己資本比率は、2010年代に入ってから上昇傾向にあるものの2019年度時点で17.1%と依然として低い。これに相対する形で、中規模企業では借入金依存度が低下傾向にあり2019年度時点では34.0%と、大企業の30.8%とほぼ同水準となっている。小規模企業の借入金依存度については、比較的高い水準で推移しており、2019年度時点で60.1%となっている。中規模企業では、過去20年にわたり、借入金への依存度を下げて、財務面の安全性の改善を遂げてきたことが分かる。中規模企業では2000年代から、小規模企業では2010年代から経常利益が増加し、売上高が横ばい基調の中で売上高経常利益率が改善しており、中小企業が収益力を高めてきた。2000年代以降の中規模企業及び2010年代以降の小規模企業における自己資本比率の上昇は、これら利益の蓄積との関係性が高いと言える。中規模企業について、業種別に財務の安全性を表す自己資本比率及び借入金依存度(2019年度時点)の平均値のうち、自己資本比率は宿泊業、飲食サービス業では低く、製造業や情報通信業では高くなっている。
売上高経常利益率

業種別に収益性を表す売上高経常利益率(2019年度時点)の平均値について見ると、宿泊業、飲食サービス業では低く、建設業や情報通信業では高くなっている。宿泊業や生活関連サービス業、飲食サービス業では赤字企業の割合が多い一方、卸売業や小売業では5%以上の高い利益率を確保できている企業の割合が低くなっているなど業種の特性に応じた分布の違いが見られる。
コストの構造

大企業の損益分岐点比率は2019年度時点で60.0%にまで改善している一方、中規模企業では85.1%、小規模企業では92.7%と、改善はしているものの大企業との格差が大きくなっている。売上高が大きく減少するような局面での耐性は、大企業に比べて低い。業種別に損益分岐点比率(2019年度時点)の平均値について見ると、宿泊業や飲食サービス業では高く、卸売業や建設業では低い。すなわち、宿泊業や飲食サービス業は売上高の減少への耐性が低く、卸売業や建設業は高い。
企業の資産構成

大企業では2000年代に、海外投資やM&Aなどにより事業を拡大したことで、投資有価証券の割合を増加させつつも、内部留保も堅調に積み上げており、借入金依存度は横ばいで推移している。中規模企業では、大企業と同様に投資有価証券の割合の上昇が見られるも、2000年代以降借入金の削減に徹しており、かつ現預金の割合も緩やかに高まるなど、大企業ほどは資金調達を通じた事業拡大に取り組んでいない傾向にある。小規模企業では、2000年代までは低い収益性が課題となり、高い借入金依存度が続いていたが、2010年代に入ると、中規模企業と同様に収益力が改善し、借入れを削減する傾向にシフトしつつある。
第2節 新型コロナウイルス感染症が与えた影響と資金調達の動向

感染症が売上高や資金繰り面に与えた影響と、中小企業の資金調達の動向や支援策の活用状況及び関心の集まった資金調達手段の概要について
2020年の売上高

2019年の売上高を「100」とした場合の水準で、2020年の年間の売上高を業種別に比較すると、100未満の割合は宿泊業、飲食サービス業、生活関連サービス業で高く、建設業では低いことが分かる。特に2020年4月から5月の緊急事態宣言の発令期間が他県と比べて長かった9都道府県(以下、「感染拡大9都道府県」という。)に所在する企業と、その他の地域に所在する企業のうち、飲食サービス業では、感染拡大9都道府県における75未満の割合が、その他の地域と比べて特に高い。
感染症流行の影響を踏まえた資金繰り支援

持続化給付金は、2020年5月1日に申請受付を開始し、2021年2月末時点で、約423万件、約5.5兆円の給付を行った。家賃支援給付金は、2020年7月14日に申請受付を開始し、2021年2月末時点で、約101万件、約8,800億円の給付を行った。雇用調整助成金は、2020年1月24日以降の期間、感染症の影響を受けて事業の縮小した事業者に対して累次の特例措置を講じ、2021年2月末までに約267万件、約2.9兆円の支給を行った。持化給付金は従業員規模の小さい企業、雇用調整助成金は従業員規模の大きい企業で活用した割合が高い。
持続化給付金

給付対象者は資本金10億円以上の企業を除く中小法人等(医療法人、農業法人、NPO法人など、会社以外の法人を含む)、フリーランスを含む個人事業者等。2019年以前から事業により事業収入(売上)を得ており、今後も事業継続する意思があること。2020年1月以降、感染症拡大の影響等により、前年同月比で事業収入が50%以上減少した月があること。給付額は【中小法人等】200万円(上限)、【個人事業者等】100万円(上限)。
家賃支援給付金

給付対象者は 資本金10億円以上の企業を除く中小法人等(医療法人、農業法人、NPO法人など、会社以外の法人を含む)。フリーランスを含む個人事業者等。2019年以前から事業により事業収入(売上)を得ており、今後も事業継続する意思があること。2020年5月から12月までの間で、感染症の影響などにより、①いずれか1か月の売上が前年の同じ月と比較して50%以上減っていること。又は②連続する3か月の売上の合計が前年の同じ期間の合計と比較して30%以上減っていること。 他人の土地・建物を自らの事業のために直接占有し、使用・収益をしていることの対価として、賃料の支払いをおこなっていること。給付額は【中小法人等】最大600万円、【個人事業者等】最大300万円。
貸出態度判断DI

金融機関の貸出態度を示す貸出態度判断DIでは、大企業では小幅な下落にとどまり、中小企業では横ばいを維持
し、DIの水準が大企業と逆転している。過去のショックと比較して、貸出態度の消極化がほとんど見られなかったことが、資金繰り判断DIの低下を小幅にとどめたものと推察される。。中小企業向けの貸出残高は2014年以降増加傾向にあったが、感染症流行の影響を踏まえて更に大幅に増加、金融機関が積極的な融資姿勢を崩していないことなどが推察される。10-12月期は大企業、中小企業ともに横ばいで推移している。
資金調達

新たな借入れを行った企業における、調達した資金の使い道について。業種を問わず、「手元現預金の積み増し」
を回答した企業の割合が高いことが分かる。業種別に見ると、宿泊業では、「赤字補てんや当面の資金繰り」と回答した企業の割合が他の業種に比べて高く、「手元現預金の積み増し」、「デジタル化」、「新製品・サービスの開発や新規事業の立ち上げ」と回答した企業の割合が低い。また、飲食サービス業では、「感染症対策」「新製品・サービスの開発や新規事業の立ち上げ」と回答した企業の割合が比較的高く、感染症を契機とした取組に特に資金調達を必要としている可能性が考えられる。安定的な事業継続のために必要だと考える現預金水準が月商の何か月程度と考えているかについて3か月以上と回答する企業の割合が増加。不確実性に備えるため、手元現預金の積み増しが必要と考えている企業が増加したものと推察される。手元現預金の推移について企業規模別に見ると2020年は実際に、感染症流行を契機に中小企業が手元現預金を増加させている。
設備投資に対する意識の変化

企業規模別に設備投資のスタンスの変化について見ると中小企業では、感染症流行前の2019年から「維持更新」が低下、「情報化への対応」や「新事業への進出」が上昇していたが、感染症流行後の2020年にその傾向が加速している。感染症が設備投資の実施判断に影響を与えたか別に、2020年の投資計画における設備投資の目的を見ると、影響のあった企業の方が、「合理化・省力化」、「情報化関連」、「新規事業の進出」、「倉庫等物流関
係」、「新製品の生産」の回答割合が高く、「設備の代替」、「維持・補修」の回答割合が低い。
関心の高まる多様な資金調達手段

①コミットメントライン(銀行融資枠)・・・銀行と企業があらかじめ設定した期間及び融資枠の範囲内で、企業の請求に基づき、銀行が融資を実行することを約束(コミット)する契約のこと。
②資本性劣後ローン・・・企業が資金を調達する方法は、金融機関や投資家からお金を借り入れる「デット・ファイナンス」と、株式を発行することで資金調達を行う「エクイティ・ファイナンス」の主に2通りがあるが、その中間形態(「メザニン・ファイナンス」)も存在し、資本性劣後ローンはその中の一つ。
③エクイティ・ファイナンス・・・株式発行による資金調達
④クラウドファンディング・・・オルタナティブ・ファイナンスのうち、インターネットを通じて不特定多数の個人から資金を集める方法を指す。投資家が受け取るリターンにより、寄付型、購入型、融資型、株式型に分けられる。
⑤トランザクションレンディング・・・統一的な用語の定義はないが、ECにおける販売実績や消費者のレビュー、会計ソフトの入力情報、金融機関の預金口座情報、クレジットカードや電子マネーの決済情報など、様々なデータをAIなどコンピュータープログラムを使って分析し、融資の可否を決める手法による資金調達のことを指す。
クラウドファンディング

今後の活用意向がある企業に対し、活用したい理由を聞くと「アイデア勝負で資金調達できる」と回答した企業の割合が高いことが分かる。クラウドファンディングを活用した資金調達の目的について感染症流行下では既存顧客から寄付を募る企業も見られたが、「新規顧客獲得・販路開拓」を回答した企業の割合が最も高く、次いで「試作品開発」などが続く結果となっている。クラウドファンディングは資金調達だけでなく新しい製品・サービスのテストマーケティングの手段として活用することもできる。感染症流行下で新たな製品・サービスの提供を検討している企業では、こうした資金調達手段を有効活用することも検討に値するといえよう。
第3節 危機を乗り越えていくために必要な中小企業の取組

感染症の影響を小さく抑えられた企業や、感染症流行下でも回復を遂げている企業の特徴を分析し、ウィズ・コロナ、ポスト・コロナを見据えた経営戦略策定の重要性について
過去の経営危機を乗り越えるための取組

経営危機を乗り越える上で最も重要だった取組について見たものである。危機前の取組としては、「新事業分野への進出、事業の多角化」と回答した企業の割合が最も高いことが分かる。また、危機下の取組を見ると、「資金繰りの改善」と回答した企業の割合が最も高いことが分かる。経営危機を乗り越えるために
行った取組(雇用・人材以外)について見ると、調査時点の総資本利益率が2%以上の企業を経営パフォーマンスの高い企業と位置づけ、その2%以上の企業では、「新規顧客開拓」、「生産効率改善」、「高付加価値製品・サービスの拡充」と回答した企業の割合が高く、2%未満の企業と比べても高い。経営危機を乗り越えるために
行った取組(雇用・人材)について見ると、2%以上の企業、2%未満の企業いずれでも「減給」、「賞与のカット」、「役員報酬カット」と回答した企業の割合が高いことが分かる。一方で、2%以上の企業では、2%未満の企業に比べて、「社内人材の教育・訓練」と回答した企業の割合が比較的高い。危機を乗り越えて再び成長軌道に戻っていくためには、「高付加価値製品・サービスの拡充」「新規顧客開拓」「生産効率の改善」「社内人材の教育・訓練」といった、新たな経営戦略の策定や業務改革も並行して進めていく必要がある。
経営計画の運用と感染症の影響の関係性

経営計画を見直して役に立った経験について、従業員規模別に見ると、従業員数が多い企業ほど「事業のリスクを回避できた」「自社の課題が整理された」の回答割合が高いことが分かる。また、従業員数が小さい企業ほど「円滑に資金調達ができた」「従業員の雇用を守ることができた」の回答割合が大きいことが分かる。一般的に、企業にとって経営計画を明文化する必要性が生じるかどうかは、従業員や株主、金融機関などのステークホルダーとの関係性にもよるが、経営計画を策定した場合には、それが足元の状況に即したものになっているか、点検していく(PDCAサイクルを回していく)ことが重要である。こうした取組ができている企業では感染症流行下のような大きな事業環境変化にも強い可能性があることが推察される。
売上高回復企業の特徴

売上高が感染症流行前の水準に戻ると予想する時期について、業種別に比較したものを見ると宿泊業、飲食サービス業、生活関連サービス業では回復に長期を要すると考えていることが分かる。また、飲食サービス業、生活関連サービス業では「戻ることはない」の回答割合が2割近くとなっている。また、顧客属性別に比較したものを見るとBtoCの方が、感染症流行前の水準に戻るまで長期を要すると考えていることが分かる。世界18か国の1万
5千人の個人に行ったアンケート結果では、感染症の収束後も利用を継続したいサービスについて、ネットショッピング(49%)、家での運動(43%)、 モバイル決済(41%)、 ビデオ通話(35%)、在宅勤務(27%)、ビデオ会議(27%)、食品宅配サービス(22%)が挙げられており、感染症の収束後も感染症を契機に拡大した需要が今後残っていく可能性もある。今後、売上高が戻らない前提で、感染症流行下で拡大した需要を捉えながら、収益構造や事業内容を見直していく必要性に迫られる企業が相応に出てくるものと考えられる。
経営計画の見直しと売上高回復の関係性

感染症流行前時点で、経営計画に対する定期的な評価・見直しを十分に実施してきたか見ると、十分に見直している企業ほど、売上高回復企業の割合が高い。感染症流行後の見直し状況別に、売上高回復企業の割合を見ると、売上高回復企業の割合は、「見直した上で計画を実行している」と回答した企業で最も高いことが分かる。また、感染症の影響が大きかった企業の中で比較しても、同様に「見直した上で計画を実行している」と回答した企業が最も高いことが分かる。感染症の影響が持続する中で、計画の見直しに一早く取り掛かったかと、売上高が回復しているかの間には、関係があることが推察される。感染症流行による事業環境変化の捉え方を見ると、感染症の流行を事業の脅威(ピンチ)だと感じている企業ほど売上高回復企業の割合が低く、機会(チャンス)だと感じている企業ほど高い。
従業員の能力開発、トライアンドエラーの環境

事業環境の変化への柔軟な対応は、経営者だけでなく従業員を含めて企業全体が取り組んでいく必要がある。感染症流行後に従業員の能力開発・ノウハウ取得のための研修の実施状況別に、事業環境の変化に柔軟に対応でき
ていると感じているかを見ると、積極的に実施しているほど、「十分できている」、「ある程度できている」と回答した企業の割合が高いことが分かる。試行錯誤(トライアンドエラー)を許容する組織風土があるか別に、売上高回復企業の割合を見ると、当てはまる企業ほど、売上高回復企業の割合が高いことが分かる。事業環境が変化する中でも失敗を恐れず新たな取組に挑戦し続けることが重要である。
財務・経営に関する社外への相談状況

財務分析の必要性を感じているが実施していない企業における今後の支援ニーズについて、財務の安全性別に見ると、安全性が低いほど、「必要性を感じているが、方法が分からず金融機関等の助言を得たい」と回答した企業の割合が高い。経営計画の共有先について、財務の安全性が低い企業ほど「税理士・コンサルタント等」「金融機関(メインバンク)」と回答した企業の割合が高く、安全性が高い企業ほど「従業員」「株主」の割合が高い。
第4節 中小企業を取り巻く事業環境の変化への対応

環境・エネルギー、SDGs/ESG

感染症流行前の2019年に、中小企業に対して新たに進出を検討している成長分野を聞いたものでは「環境・エネルギー」と回答した企業の割合が最も高い。特に環境・エネルギーへの関心が高い背景として、SDGsやESG(以下「SDGs/ESG」という。)への注目度が高まっていることが考えられる。近年増加しているのがESG投資であり、ESG投資とは、財務情報だけでなく、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)に関する取組も考慮した投資のこと。
中小企業がSDGsの活用によって期待できるポイント

2020年3月に環境省が公表した「持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド(第2版)」では、中小企業がSDGsの活用によって期待できる四つのポイントを紹介している。一つ目が、企業イメージの向上である。SDGsへの取組をアピールすることで、多くの人に「この会社は信用できる」、「この会社で働いてみたい」という印象を与え、より多様性に富んだ人材確保にもつながるなど、企業にとってプラスの効果をもたらすことができる。二つ目が、社会の課題への対応である。SDGsには持続可能な未来の実現のための様々な目標が網羅されており、これらの目標実現のための課題への対応は、経営リスクの回避とともに、社会への貢献や地域での信頼獲得にもつながる。三つ目が、生存戦略になる点である。今後はSDGsへの対応がビジネスにおける取引条件になる可能性もあり、持続可能な経営を行う戦略として活用できる。例えば、サプライチェーンを支える中小企業では、今後大企業でSDGsへの意識が高まれば、SDGsを意識した取引を要請されるようになる可能性もある。四つ目が、新たな事業機会の創出である。取組をきっかけに、地域との連携、新しい取引先や事業パートナーの獲得、新たな事業の創出など、今までになかったイノベーションやパートナーシップを生むことにつながる可能性がある。消費者向けに製品・サービスを提供する事業者では、SDGs を取り込んで製品・サービスの差別化にいかすことも選択肢といえる。
グローバル化

日本貿易振興機構が実施した「2020年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」を基に、海外ビジネスを実施する企業における感染症流行の影響と、今後の意向について、確認すると感染症の2020年度の売上高
への影響として海外向けにビジネスを行う企業の約6割が、マイナスの影響があったと回答している。そのマイナスの影響の程度を見ると、中小企業の海外売上高の減少幅の平均は41.0%と、国内売上高に比べて大きく、また大企業と比較しても大きい。
海外ビジネスの見直し

海外ビジネスの見直し方針について企業規模別に見ると、中小企業では「販売戦略の見直し」を回答した企業の割合が高いことが分かる。販売戦略の見直しと生産の見直しについて、細かく見ると販売戦略の見直しでは「海外販売先(ターゲット)の見直し」、「バーチャル展示・商談会等活用の推進」、「越境EC販売開始・拡大」を回答した企業の割合が高い。生産の見直しでは「生産数量・配分や生産品目の見直し」と回答した企業の割合が高いことや、「新規投資/設備投資の増強」と回答した企業の割合は「新規投資/設備投資の中止・延期」を上回っている。
越境EC

販売でECを利用している企業の内、越境ECを利用している企業の割合を見ると、越境 EC を利用している割合は
2016年以降増加している。また2020年について、企業規模別に見ると、中小企業の方が越境ECを利用している割合が高いことが分かる。米国及び中国の消費者による日本の事業者からのEC購入額の推移を見ると、特に中国を中心に、越境ECの市場規模が拡大してきている。

英語の知識 〜母音〜

英語の母音 cut,but /ʌ/ away,about /ə/ arm,father,calm /ɑː/ cat,bad /æ/ get,met /e/ first,bird /ər/ bit,hit,sit /ɪ/ see,he,eat /iː/ hot,got /ɑ/ ta...